「オフェンスでは、いくつか新しい要素を加えている」
カイル・ミリングヘッドコーチは、2023-24シーズンに広島ドラゴンフライズでBリーグ年間チャンピオンに輝き、その翌シーズンから群馬クレインサンダーズで指揮をとっている。今シーズンで3シーズン目を迎えるが、群馬でも直近2シーズン連続でチームをチャンピオンシップに導いており、その手腕に疑う余地はない。
ただ、今シーズンからBプレミアへ移行し、オンザコートフリーや平日単一開催の増加など、これまでのレギュレーションとは異なる。慣れ親しんだやり方を変え、未知な領域にアプローチすることも求められる。
その中で、ミリングヘッドコーチはオフの準備期間に取り組んできたことについて、次のように明かす。「このオフの練習が始まったときから、AJ(エージェー・エドゥ)が(フィリピン代表招集のため)いませんでした。だから、最初からポジションレスバスケを取り組んでいます。ポジションを固定せず、毎日のように継続してきました。基本的には、どの試合でもそういうバスケットボールができることを目標にしています。そして、全員がすべてのポジションを理解して、プレーできるようにしたいです」
昨シーズンからの継続選手が多いこともあり、「大きくシステムを変えるわけでない」と話す一方で、「オフェンスでは、いくつか新しい要素を加えています」と明かす。昨シーズン、ケガ人が多く出たことで取り入れていたポジションレスバスケを、今シーズンはより強い武器にしていくという。実際、フィリピンで行われたレバンガ北海道戦では、コー・フリッピンがスクリーンをかけに行く場面も目立った。東京サンロッカーズとのプレシーズンゲームでは、細川一輝も同様の動きを見せていた。いずれも昨シーズンまでにはあまり見られなかった動きだ。
「コーは今、スクリーナーとしてプレーし、ピックからダイブする動きを多くしています。それによって、シューターたちがスペースを作れるようになります。一輝も素晴らしいダイブをしていました。彼のようなチームで一番のシューターであっても、スクリーンをセットしてダイブしています」
トレイ・ジョーンズやスタンリー・ジョンソンといった強力なハンドラーに対し、ガードやシューターの日本人選手がスクリーンをかけに行く。ディフェンスがスイッチすれば、外国籍ハンドラーと日本人ガードのミスマッチが生まれる。ミスマッチハントは、群馬の得意とするオフェンスパターンの一つだ。
仮にスイッチをしなくても、ゴール下にダイブした選手にボールが渡れば、フリッピンや細川のようなフィジカルがある選手はそのままシュートまでいける。ミリングヘッドコーチが意図を明かしたわけではなく、あくまで私なりの解釈だが、理にかなったプレーである。

「開幕戦では自分たちのやるべきことに集中しなければならない」
ミリングヘッドコーチの戦術や起用方法のベースにあるのは、選手との『信頼』だ。信頼してプレーを任せて、その信頼に選手が応える。その繰り返しが得点を生み、強固なディフェンスを生み、勝利へとつながっていく。ミリングヘッドコーチとの関わりが長い辻直人と、チーム最長所属となるジョーンズについてコメントを求めたところ、その言葉からも確かな信頼関係が感じられた。
「辻さんには、コート内外でのリーダーシップを期待しています。彼はここ数年キャプテンを務めていますし、私と彼は5シーズン目になります。彼は私のことを理解していますし、私も彼のことを理解しています。特に重要なシュートが必要な場面や、チームが苦しい状況になったときに、辻さんがステップアップしてくれると信じています。チームが苦しいとき、もう一度引き上げてくれる存在です」
「トレイには『トレイらしく』プレーすることを期待しています。彼は『DO-IT-ALL(なんでもこなす)』ですから。自分で得点できるだけではなく、周りの選手のためにチャンスを作ることもできます。今シーズンもチームを引っ張ってくれると思っています。これまで何度も試合を決めるシュートを沈めています。だから、私はトレイをとても信頼しています」
そして最後に「2人がやってくれると私は信じています」と言葉を締めくくった。
9月24日、いよいよシーズン開幕戦を迎える。対戦相手はアルティーリ千葉だ。ミリングヘッドコーチは「D.J・ニュービルや安藤誓哉が加わって、ガード陣に良い選手が揃っています。これまでのA千葉とは違ったスタイルになると思うので、対応できるよう準備していきます」と展望を語る。一方で、意識を向けるのは対戦相手だけではない。「シーズン最初の試合というのは、どうなるか分かりません。選手も、スタッフも、ファンも、みんなすごく興奮していると思います。だからこそ、開幕戦では自分たちのやるべきことに集中しなければなりません」
アメリカ出身のミリングヘッドコーチは、選手キャリアの大部分をフランスで過ごした(日本でも2シーズンプレー)。コーチとしてもフランスで6シーズンを過ごしたが、日本でのコーチキャリアはそれを超える7シーズン目となる。数多くの外国人コーチが数年で日本を離れる中、ミリングヘッドコーチは日本のバスケットボールに適応しながら、結果を残してきた。リーグが変わり、レギュレーションも変わる。しかし、ミリングヘッドコーチが大事にしてきた『信頼』は変わらない。群馬とミリングヘッドコーチの、新たな章がまもなく始まる。


